写真家を夢見る人へ


写真家になりたい人がたくさん来ます。
どうしたらなれますかと聞かれるのですが、100人の写真家がいたら、
100通りの写真家になる方法があると思います。
本当に人それぞれなので、答えようがありません。
ただ、「僕がこうしてきた」ということは言えるので、僕なりの考えを
文章にまとめてみました。
参考になれば幸いです。


僕が写真を始めたのは27歳頃だと思います。
学生の時はバンドばかりやっていて、就職してからは広告を作る仕事に携わり、
10年間サラリーマンをやっていました。
仕事で海外出張に行くようになり、せっかくだからと写真を撮るようになりました。
一眼レフを初めて手に入れたのは27歳の時でした。
仕事柄プロのカメラマンの撮影現場に立ち会うことが多かったので、
分からないことは聞いたりしましたが、独学と言うよりは、自己流。
思うままに写真を楽しんでいました。


32歳の時オーストラリアに出会い、そこに住みたいと思いました。
仕事は面白かったのですが、仕事に限界を感じていたこともあり、
思い切って会社を辞めてシドニーに渡りました。
英語を2ヶ月ほど習った後、各地を写真を撮りながら回りました。
そして将来、写真を撮って生活できたらいいなと漠然と思っていました。
1年ほどで日本に帰って来て、写真関係の仕事をしたいと思い探しましたが、
どれも自分の思っている写真の世界とは違うようでした。
写真学校に入ろうかとも考えましたが、
「大事なのはセンスだよ。技術は必要な技術だけ自分で勉強すればいい」
という先輩のアドバイスもあり、思いとどまりました。
その後、人に誘われるまま広告企画の会社を作り、3年間働きました。


でも、オーストラリアと写真への夢は捨て切れず、写真を撮り続けていました。
38歳の時、JPSという大きな公募展に入選したことと、小さなギャラリーで
初めて展覧会をやったことをきっかけに、もう一度チャレンジしようと決心し、
再びオーストラリアへ渡りました。
車にテントと撮影道具を積んで、8ヶ月ほど放浪しました。
あの時竹内敏信さんの風景写真術という本、とことん読んで勉強になりました。


帰国してアルバイトをしながら、作品を写真集をイメージして一冊のアルバムにまとめ
出版社を何社も回りましたが、毎回やんわりと断られました。
落ち込んでいた時、あるギャラリーのオーナーが作品を気に入ってくれて、
写真展をやることになりました。
それが最初の写真集「雲の言葉」のベースになりました。


写真家になろうと思ってからもずっと自分は何を撮りたいのか、何を美しいと思うのか、
何を人に伝えたいのか、どう表現したらいいのか、いつも悩んでばかりいました。
自分のテーマが空や雲であることに気が付いてからはあまり悩まなくなりましたが、
それ以前はひどかったです。
自分が狂ってるんじゃないかと思ったり、うつ病のようになったりもしました。


今になって言えることは、それらの経験がすべて無駄ではなかったということです。
学生の頃バンドをやっていた時の、メロディや詩やノリに対するこだわり。
会社で広告を作っていた時の、カメラマンやデザイナーや様々なクリエイターから
吸収した美意識やプロ意識。
印刷の知識やプレゼンテーションの大切さ、社会の仕組みや商売の基本。


旅に出てからはたくさんのアーティストとの出会い。
貧乏でも楽しくやる秘訣、自分の心の闇の中の長い旅。
僕が美しいと思うものを喜んでくれる人々との出会い。
一つずつ小さなことを積み上げて、やっと自分らしさというものが、
自分のスタイルというものが分かってきた気がします。


人生は長いんです。
焦らず一歩ずつ、自分の世界を広げていくことです。


自分が表現したい何か、人に伝えたい何か。
それは年齢や経験によってどんどん変わっていくはずです。
あまり思い詰めず、写真を楽しむことを覚えて下さい。
楽しんで撮った写真は人の心を動かします。
悩んだり、苦しんで撮っている写真には、その気持ちが写っています。
撮る人の気持ちやバイブレーションが、写真には必ず写るのです。


基礎はしっかりと勉強した方がいいですが、真剣でさえあれば僕のように独学でも
何とかなると思います。
今の時代、デジカメが写真の世界の中心になりつつありますが、モノクロで表現したい人、
僕のようにカラーリバーサルしか使わない人など、表現の手段も多様化しています。
自分に合った手法、表現手段を見つけるのも重要なことです。
でも、これがあなたには最良の方法ですとは、誰も教えてくれません。
自分で見つけるしかないのです。


カメラマンという職業は、人に頼まれた写真を上手に撮る仕事です。
写真家という職業は、自分の中にある何か、人に伝えたいことを写真を通して表現する仕事です。
小説家に似ているような気がします。
大切なのは、個性と感性=オリジナリティとセンスです。
そして夢を諦めずに続けること、長い金欠生活に耐えるサバイバル能力。


写真の技術も当然必要ですが、自分にしかない個性や感性を磨くために、本を読み、映画を見、
旅をし、人と付き合い、恋愛をし、仕事やアルバイトをし、様々な経験をする。
たくさんの喜怒哀楽を経験し、感動し、心の闇をさまよい、挫折し、立ち直り・・・。
とにかく何事も自分の肥やしになると思い、一生懸命生きて一つの事からたくさんの何かを
自分のものにすることです。
それら全てが写真には写ります。


誰かみたいな写真家、誰かに似た写真家を世の中は求めていません。
他の人にはない輝く個性を求めています。
他の誰でもない、「自分」の思いを表現することが大切です。
長い自分探しの果てに、写真家という職業があるように僕は思います。


でも、夢は必ず叶うと考えて、ポジティブに、前向きに、そして一瞬一瞬を楽しんで、
ハッピーに、というのを基本姿勢にしていれば、大体なんとかなります。
自然とラッキーが舞い込んでくるものです。僕はそうでした。


どんな写真家になるのも自由です。自分らしくさえあればいいのです。
自分の個性を枠にはめたらダメです。
あなたが思っているよりも、あなたの世界は広いはずです。
心から好き、撮りたい、これが第一の基準です。
他人と比べないで下さい。あなたの世界では、あなたが主役です。
あなたが感動するものに、きっと人も感動するはずです。
あなたの世界、あなたの宇宙、あなたの感性、それを信じることです。


あなたの準備が整ったとき、必ずドアは開きます。


僕はこんなことを自分に言い聞かせて、写真家になりました。
あなたの明るい未来を祈ります。
GOOD LUCK



2005年3月21日

HABU